自社エンジンで国産AAAクラスゲームを実現 メタルギアソリッドV

PlayStation3, PlayStation4, Xbox/360/One

METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES / メタルギアソリッドV グラウンド・ゼロズ
発売日:2014年3月20日 ハード:PlayStation3/4 Xbox360/One
METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN / メタルギアソリッドV ファントムペイン
発売日:2015年9月2日 ハード:PlayStation3/4 Xbox360/One

デス・ストランディング(DS)をクリアしてレビューを書こうとしたらMGSVがまだだったので、DSと二本同時公開でお送りします。
※ネタバレを含むため未プレイの方はご注意ください。※約4年前の記憶を手繰り寄せた内容です。

2015年春。筆者はMGSVの序章GROUND ZEROES(以下GZ)と本編THE PHATOM PAIN(以下TPP)がワンパッケージになって発売されるのではと考え、TPPの発売までPS4の購入を保留していたのですが、TPPの発売日決定と単品でのリリースがアナウンスされたことでPS4とGZを合わせて購入しました。

前作MGS4はグラフィックはトップクラスだったものの、同時期の海外製ゲームと比較するとステージ切替式等の点で遅れを取っている感がありました。そこで小島秀夫氏は海外勢に対抗し開発の効率化も成し得る自社製ゲームエンジン「FOXエンジン」の開発を決断。エンジン開発も含め、前作からGZ発売まで約6年、TPPまで約7年の歳月がかかり、その間にGZの前日譚「PEACE WALKER」を2010年にPSP向けにリリースしていました。

制作の長期化の為か「MGSV」のプロローグに当たる部分が「GROUND ZEROES」として分作されて発売。前述の通りPS4と同時購入した筆者は、 MGS4と比べ解像度や光・雨の表現が大きく向上していることにPS4とFOXエンジンのパワーを実感。過去作よりもシリアスで残酷な描写を含むストーリー面にも貢献しています(カタカナの「オタ」と「魂」を組み合わせた創作漢字のFOXエンジンロゴが良い!)。

シチュエーションは、とある基地に潜入し捕虜を救出、ヘリを呼んで離脱するというもので、捕虜を担いでいる間やヘリの到着までの安全を確保しなければならないという点が新たな緊張感を生んでいました。潜入ルートはプレイヤー次第で自由度があり、更にパラレルワールド的に同じ舞台で違う状況でのミッションが複数用意され楽しむことができました。

そして約半年後、本編「THE PHATOM PAIN」の発売。「GZ」のラストで負傷し9年間眠り続けていた主人公、ビッグボスは病院で目覚めると左腕を失っている事を知ります。彼の命を狙う魔の手が迫り、主治医から逃亡の為に整形すると言われるとアバターのメイキング画面に。あれ?MGSってこんな要素があるゲームだったっけ?疑問のまま進めると整形したはずなのに前後で顔が変わっていない?疑問符だらけのまま状況は転がり、謎の部隊による病院襲撃とリアルな惨殺描写の一方、宙に浮かぶ子供と炎に包まれた男との遭遇という非現実的な状況にますます混乱。不自由な体をなんとか動かし、聞き覚えのある声の男の先導に従って辛くも病院を脱出。

夢か現か定かではない状況が終わり、ビッグボスに心酔する男オセロット(この時期の彼の容貌と三上晢氏の声がカッコイイ!)の手引きで離脱、万能義手を装備して伝説の兵士としての現場復帰・リハビリとなる最初のミッション。「GZ」では限定されたステージでのミッションでしたが、いよいよシリーズ初挑戦のオープンワールドが始まります。

TPPでは舞台となるアフガニスタンの荒野に大小の敵基地が点在。プレイヤーは、移動手段(徒歩/馬/車両/戦車など)、侵入ルート、時間帯、装備品、バディ、支援(ヘリからの装備・車両投下/砲撃)といった様々な要素を自由に選んで攻略できます。ミッション形式で各地の基地を攻略しながらストーリーが進み、ミッション毎にリザルト画面で評価される形式なので、様々なパターンで攻略を楽しんだり、高ランク評価を狙うことができます。※目的やエリア制限のないフリーミッションモードも有り。

スコープでの偵察とマーキング、敵に感づかれた気配の表示など、GZからの新しいシステムや移動手段を駆使して、囚われたかつての相棒カズを救出。彼は片腕・片足、そして視力を失っていました。ビッグボスの左腕と共に、失ったはずの手足の痛みを感じる「幻肢痛 / PHANTOM PAIN」がMGSVのテーマの一つです。

カズ復帰により「マザーベース」運営の要素が始まります。GZのラストで失った洋上プラント型のマザーベースを再建する為に、各地にあるコンテナや植物等の資源回収、敵兵器の鹵獲により基地を発展させていきます(プレイ中、街でコンテナを見かける度にフルトン回収したくなる症状にかかってしまいましたw)。「PEACE WALKER」と同様に無力化した敵兵士を回収することで仲間に加え、彼らの戦闘力や科学技術で基地の防衛強化や武器装備開発を行います。優秀な兵士を多く集め、基地を発展させるほどゲームを有利に進めることができます。また、様々な母国語を持つ兵士達が共同生活の中で仲間の言語を覚えていく要素もあります。

マザーベース(前線基地/FOB)の状態がオンラインで行われるプレイヤー同士の潜入合戦における防衛力にも影響する中、特に大きな要素が「核武装」。反核がテーマのシリーズでありながらプレイヤーが核武装し他プレイヤーからの報復への抑止力とすることができる一方で、敵基地から奪った核の廃棄もできる。サーバー内の全てのプレイヤーが核を持たなくなった時に起きる「核廃絶イベント」が用意されているものの、その達成は困難で現実での核廃絶の難しさを遊びながら考えさせられる壮大なゲームデザインです。※2018年2月、サーバーエラーにより突如この「核廃絶イベント」が発生してしまいました。

ストーリーに話を戻すと、ゲーム序盤で女スナイパーとの狙撃戦が発生。MGS3のジ・エンド戦を彷彿とさせますが、オープンワールド化(シームレス化)により更に没入感のある、地形を活かした戦いを楽しめます。この女スナイパーの名は「クワイエット」。仲間になった後もその名の通り一切話さないのですが、この事と前述の兵士の言語、後述する「寄生虫」がMGSVの別テーマ「RACE/人種」「VOICE/声」に繋がります。

宿敵のスカルフェイスは、核兵器と共に「特定の言語の話者」だけに感染し死をもたらす寄生虫を使って世界の軍事バランスを支配しようとします。敵の策に嵌り、プレイヤーが集め仲間となった兵士達が次々と寄生虫に感染し隔離されます。仲間の言語を覚える要素がこの事態の悪化に繋がってしまいます。もう助からない仲間に自ら銃を向けるビッグボス=プレイヤー。それに対して敬礼し歌う兵士達。この仲間達を失う痛みがまた「PHANTOM PAIN」なのです。スカルフェイスを許せませんが、彼には幼い頃に戦争で顔や故郷だけでなく、言語まで奪われた(他言語を強制された)というバックボーンがあったのでした。

中盤での遭遇と、終盤での決戦。本作のメタルギア「サヘラントロプス」は「直立」の二足歩行型。強力な武器を未入手の初戦ではその巨大さもあってとてつもない脅威を感じました(VRで対決したかった!)。

スカルフェイスを倒した後、冒頭の病院襲撃のエピソードを再びプレイすることに。すると、以前不自然に感じて混乱したシーンが解消されこのゲームの真実が明らかにされます。プレイヤーが今まで操作していたのは、ビッグボス本人ではなく影武者だった!GZラストの爆発の際、ビッグボスを庇って共に負傷した衛生兵こそが、TPPにおける「ヴェノム・スネーク」。冒頭でアバターを設定したのは「ビッグボスの影武者=プレイヤー自身」という構造を作る為だったのです。病院襲撃時の多くの疑問や、イーライの遺伝子検査の件などでプレイ中薄々は感じていましたが、まさかの替え玉。ヴェノムがアフガンで活躍し後にFOX HOUND総司令官を演じながらアウターヘブンを作り上げる裏で、本物のビッグボスはザンジバーランドへの準備を進めていくのでした。ソリッド・スネークが第1作「メタルギア」で戦ったのがヴェノムで、第2作「メタルギア2」で戦ったのがビッグボスだった事になります。筆者はMGSVに、MGS1MGS3の様なあくまで「正統派」のどんでん返しのストーリーを期待していたのですが、まさかのMGS2系統。スネークが主人公のタンカー編がGZ、雷電が主人公のプラント編がTPPに相当する構造に。しかし、この意外性がまた小島監督作品らしいところ。

スカルフェイス打倒以降、カズを中心にマザーベースが小説「1984」を思わせる監視社会化していきます。劇中の誰が本当の事を言っていて、誰が正しいのか。発売当時様々な議論が巻き起こったようで、この件については省略。

海外AAAクラスのゲームに対抗できる国産ゲームなのに小島秀夫氏の退社騒動が水を差し、せっかくのFOXエンジンもその後活用されず残念。サヴ◯イブを作るぐらいなら、カットされたエピソード51「蝿の王」をDLCを完成させて欲しかったなぁ。

※TPP発売の約一年後に、GZとTPPのセット版がリリースされました。